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2026/10/07
企業向け副業の許可基準の決め方は?就業規則・誓約書のひな形とあわせて解説
多様な働き方の推進に伴い、従業員の副業・兼業を容認する企業が増えています。しかし人事労務担当者にとっては、機密漏洩や過労による本業への支障など、多くの不安がつきまとうのが実情です。
本記事では、厚生労働省のガイドラインを踏まえ、社員満足度の向上と労務トラブル防止を両立する副業の許可基準の設計方法と、そのまま使える就業規則・誓約書のひな形を解説します。
許可基準は「制限できる 4 つの事由」から導く
副業はそもそも原則自由であり、企業が一律に禁止することはできません。厚生労働省のモデル就業規則でも、労働者は勤務時間外に他社等の業務に従事できると定められています。そのうえでガイドラインや判例が例外的に認める制限事由は、次の 4 つに限られます。
- 労務提供上の支障がある場合
- 業務上の秘密が漏洩する場合
- 競業により自社の利益が害される場合
- 自社の名誉や信用を損なう場合
これら 4 基準に該当しない副業まで規制すれば、規定そのものが無効と判断されかねません。つまり許可基準づくりとは、この 4 つの制限事由を自社の実情に合わせて客観的な言葉に置き換える作業です。感情的な判断を排した基準を言語化しておけば、上司や役員、労働組合に対する説明責任も果たせます。
客観的な副業許可の 5 つの判断基準
4 つの制限事由を実務に落とし込むには、以下の 5 つの判断軸で「どこまでなら許可するか」の限界値を定めます。
①競業性の有無を測る基準
労働者は誠実義務として、会社の利益を害する競業行為を行わない義務を負っています。判断の基準は、副業先の事業内容や職務が、自社の事業と直接競合するか否かです。自社と同一市場(同一の顧客層、サービス領域、提供技術など)で直接競合する事業者での勤務や、競合業務を個人で受託する行為を原則不許可と設定します。
②労働時間の上限設定
副業の労働時間管理は、契約形態によって法的な位置づけが異なる点に注意が必要です。
雇用型の副業(パート・アルバイトなど)では、労働基準法 38 条 1 項に基づき、本業と副業先の労働時間が通算されます。「自社の所定外労働時間+副業先の労働時間が単月 100 時間未満(かつ複数月平均 80 時間以内)」という上限を絶対条件とし、「週 1 日以上の完全休日の確保」「副業は週 15 時間・月 60 時間以内」といった数値を就業規則に落とし込みます。
一方、業務委託型の副業(執筆・受託など)には、法律上の労働時間通算義務はありません。ただし会社には安全配慮義務があるため、過重労働防止の観点から「業務委託型でも月 60 時間以内を目安とする」といった自主的な社内ガイドラインを設けることは有効です。
なお、雇用型副業の場合、実務で特に注意すべきは「通算した労働時間に対する割増賃金の支払い」です。労働基準法上、原則として後から労働契約を締結した企業が、通算後の時間外労働に対して割増賃金を支払う義務を負うという「後契約原則」があります。自社が副業先である場合はもちろん、本業先であっても契約の順序によって賃金負担が変わる点には十分に留意しておく必要があります。
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③本業への支障の客観的定義
疲労蓄積や遅刻などの支障を抽象的に扱うと、トラブルの原因になります。「遅刻・早退・欠勤が直近 3 ヶ月間に 3 回以上発生した場合」「業務中の居眠りが繰り返し確認された場合」「担当業務の納期遅延が続いた場合」など、客観的な勤務状況の事実に基づいて「支障が生じた状態」を定義します。
なお、人事評価の低下は本業以外の要因も絡むため、評価結果のみを理由とした撤回は避けるべきです。支障が疑われる場合は、まず本人面談を通じて副業との因果関係を確認し是正指導を優先するプロセスを経てから撤回を判断することで、不当な制限として争われるリスクを抑えることができます。
④情報・営業秘密の取り扱いに関する制約
営業秘密や技術ノウハウ、顧客リストの漏洩を防ぐため、自社貸与端末の副業への転用禁止や、自社内データの副業先での利用禁止を前提条件とします。競合にあたらない取引先であっても、利害関係の衝突が発生し得るポジション(取引先の意思決定に影響を与える立場など)での副業は制約の対象としましょう。
⑤会社の信用毀損リスクの判定基準
従業員の私生活上の行動であっても、会社の信用や名誉を損なう恐れがあるビジネスは許可の対象から除外します。風俗営業や公序良俗に反するビジネス、過度な勧誘行為を伴う活動、社会的批判を浴びやすい活動などは、一律に「会社のブランドイメージを著しく損なう」と定義し、不許可事由と設定するのが合理的です。
運用ルールの設計ポイント
基準を決めたら、日々の運用ルールに落とし込みます。押さえるべきは申請方式・有効期限・撤回要件の 3 点です。
なお、厚生労働省のガイドラインは「副業・兼業は原則自由」との考え方に立ち、届出制を基本としています。ただし実務では、競業や情報漏洩、過重労働といったトラブルを未然に防ぐ目的から、事前許可制を採用する企業も少なくありません。本記事でも、労務リスクを最小化する観点で「事前申請・許可制」を前提に解説します。
事前申請・許可制をベースにする
事後報告の「届出制」では、過重労働や競業・情報漏洩が起きてから把握することになりがちです。事前申請・許可制であれば、就労実態や相手先企業の信頼性を着手前に確認でき、問題のある副業を未然に切り分けられます。申請書には「副業先」「時間帯・日数」「業務内容」に加え、契約形態(雇用か業務委託か)を必ず記載させましょう。
許可には有効期限を設けて毎年更新する
一度許可を与えたら永久に有効とするのではなく、「有効期限は 1 年間(各年度末までなど)」と設定するのが運用の基本です。従業員の職務内容や健康状態、副業先での勤務時間は常に変化します。毎年決まった時期に「副業状況報告書」の提出を求めて健康状態や本業への影響を再評価すれば、誓約書の形骸化も防げます。
不許可・撤回の要件と懲戒処分を紐付ける
「遅刻・欠勤や納期遅延など、前述の客観的な勤務事実が確認された」「健康上の懸念が生じた」「誓約事項に違反した」のいずれかに該当する場合、会社は許可を撤回できる旨を就業規則に定めます。撤回に従わず無断で副業を継続した場合は、職務専念義務違反として段階的な懲戒と紐付けます。
ただし判例では、深夜に及ぶ長時間の兼業を理由とする解雇は有効とされた一方(小川建設事件)、年 1 〜 2 回程度の手伝いでは解雇が無効とされており(十和田運輸事件)、「無断=即解雇」は通用しにくいのが実情です。逆に、合理的な理由を証明できないまま一律に不許可とすれば、会社側が損害賠償を命じられるリスクもあります(マンナ運輸事件)。客観的な基準を事前に就業規則等へ明文化しておくことが、最大の法的防衛策となります。
許可・不許可の典型例を整理しておく
投資活動、書籍やブログの執筆、学会での講演、週末の地域ボランティアなど、本業と重なりにくくスキルアップに直結する活動は許可すべき代表例です。一方、競合他社での勤務、平日の深夜に及ぶアルバイト、自社顧客を引き抜くフリーランス活動などは不許可が妥当です。
そのまま使える就業規則の規定例と誓約書のひな形
許可基準を機能させるには、就業規則・申請書・誓約書の 3 点セットの整備が欠かせません。まず、就業規則に盛り込む規定例です。
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第○条(副業・兼業の許可基準および手続き)
1 .従業員は、事前に会社に所定の申請書および誓約書を提出し、会社から書面による許可を得た場合に限り、他の就業活動(以下「副業」という)を行うことができる。
2 .会社は、前項の申請があった場合において、以下の各号のいずれかに該当する場合は、これを許可しない。
( 1 )副業に起因して、本業の労務提供に支障が生じる、またはその恐れがあるとき
( 2 )競合他社への労務提供等、会社の正当な利益を害するとき、またはその恐れがあるとき
( 3 )会社の社会的信用を毀損する恐れがあるとき
( 4 )会社の営業秘密や顧客データを漏洩する恐れがあるとき
3 .会社は、第 1 項に基づき許可を得た副業について、前項に掲げる事由または健康管理上の懸念が生じた場合、本人に対する事情聴取および是正の指導を行うものとする。指導によっても改善が見込めないときは、会社は許可の撤回または副業の制限を求めることができる。
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撤回の規定は「会社がいつでも自由に撤回できる」形にすると、権利濫用として無効と判断されるおそれがあります。弁明の機会の付与や是正指導といった段階的な手続きを設け、条文に明記しておくことが、規定の有効性を保つポイントです。
また、許可制とはいえ、不許可の判断には第 2 項各号のいずれかに該当するという合理的な理由が必要です。該当事由がないまま不許可とすれば権利濫用と判断されるおそれがあるため、不許可の際は該当号と具体的な支障の内容を書面で示し、記録に残しましょう。
つづいて誓約書です。誓約書は、許可基準を個別の従業員との合意として残す書面であり、紛争時には従業員が条件を理解し同意した証拠になります。自社の実情に合わせ、項目を加除しながらご利用ください。
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副業に関する誓約書
株式会社○○○○ 代表取締役 ○○○○ 殿
私は、貴社の就業規則および副業・兼業に関する定めを理解したうえで、副業を行うにあたり、以下の事項を遵守することを誓約します。
第 1 条(申告事項)
私が従事する副業について、次のとおり申告します。
・副業先の名称:
・業務内容:
・契約形態(雇用/業務委託):
・勤務日数・時間( 1 週あたり):
第 2 条(秘密保持)
私は、貴社の業務上知り得た営業上・技術上の秘密を、副業先その他の第三者に開示・漏洩しません。
第 3 条(競業避止)
私は、貴社の利益を不当に害する競業行為を行いません。
第 4 条(労働時間の申告)
私は、副業先における労働時間および勤務状況を、毎月○日までに貴社へ申告します。
第 5 条(本業への支障防止)
私は、十分な休息を確保し、健康を害して本業の遂行に支障を生じさせません。
第 6 条(変更時の届出)
私は、副業先や業務内容に変更が生じた場合、速やかに貴社へ届け出ます。
第 7 条(違反時の対応)
私が本誓約に違反した場合、貴社の指示および就業規則の定めに基づく措置に従います。
年 月 日 氏名(署名):
…
第 1 条で契約形態(雇用/業務委託)を申告させるのは、雇用型か業務委託型かでその後の労務管理が大きく変わるためです。なお「一切の競業行為を禁止する」といった包括的な条項は、職業選択の自由との関係で無効と判断されるおそれがあります。禁止する範囲は業種・地域・取引先などで具体的に定め、無許可副業を理由とする退職金の不支給のような過度な不利益措置も避けましょう。
まとめ:客観的な許可基準で「管理して解禁」を完成させる
副業の許可基準づくりは、制限できる 4 つの事由を 5 つの判断軸で数値・条件に置き換え、就業規則と誓約書に落とし込む作業です。導入時には労使協議で「従業員の自律的な成長と安全を守るための客観的なルールであること」を丁寧に説明し、説明会でチェックリストを提示して周知を徹底しましょう。
客観的な基準と書式を備えれば、リスクを抑えながら優秀な人材が活躍できる組織づくりを進められます。ぜひ自社の制度設計にお役立てください。