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2025/10/14
正社員の副業に最適な契約形態とは?雇用契約の落とし穴と準委任契約という賢い選択
副業を解禁する企業が増え、「本業+副業」という働き方が一般的になりつつあります。しかし、正社員が副業を始める際の契約形態の選び方によっては、本業の会社に迷惑をかけたり、思わぬ法的責任を負ったりするリスクが潜んでいます。
この記事では、なぜ正社員の副業に「雇用契約」が不向きなのか、また「業務委託契約」、特に「準委任契約」が最も戦略的で安心な選択肢である理由を、法律上のポイントを交えながら解説します。
目次
正社員が副業する際の「雇用契約」の落とし穴
副業といえばアルバイトやパートなどの「雇用契約」を想像する人は多いでしょう。しかし正社員が副業で雇用契約を結ぶと、労働基準法や社会保険制度の影響を受け、本業・副業先の双方に負担をもたらす可能性があります。
【残業代問題】労働基準法に基づく労働時間通算ルール
正社員が副業として別の会社に雇用される際に、最大の障壁となるのが「労働時間通算ルール」です。雇用契約の「労働時間通算ルール」とは、労働基準法38条の本業・副業の労働時間は「通算」して管理するという決まりのことです。
例えば、本業で1日8時間勤務した後に、副業先で2時間アルバイトをしたとします。この場合、その日の合計労働時間は10時間となり、法定労働時間(1日8時間)を超えた2時間分は「時間外労働(残業)」として扱われます。
| 法定労働時間 | 1日8時間、1週間40時間 |
| 時間外労働 | ・法定労働時間を超えて労働させる場合は36協定の締結・届出が必須
・原則:月45時間、年360時間 ・割増賃金(割増率:通常賃金の25%以上)が発生 |
この残業代(割増賃金)の支払い義務は、原則として後から雇用契約を結んだ企業、つまり副業先が負担することになり、管理を怠ると罰則を受けることもあります。そのため、副業者は自身の労働時間を正確に把握し、必要に応じて各雇用主に報告を行うことが必要です。また本業・副業先の企業は法律を遵守するため、割増賃金の支払いリスクと複雑な勤怠管理コストを強いられます。
この労働時間通算ルールは雇用契約に基づかない働き方には適用されません。そのため正社員の副業では雇用契約ではなく業務委託契約の選択が現実的だといえるでしょう。
社会保険の二重加入問題
副業が雇用契約である場合、社会保険の加入要件を満たすと両方で社会保険に加入する必要があります。
加入要件は企業の従業員規模などにより異なりますが、下記の要件に当てはまる場合は社会保険への加入の可能性があるため、しっかり理解しておきましょう。
社会保険適用要件 (従業員51人以上の企業が対象)
- 週の勤務時間が20時間以上
- 給与が月額88,000円以上
- 2ヶ月を超えて働く予定がある
- 学生ではない
社会保険の二重加入が必要な場合、副業者自身で日本年金機構へ「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出しなければなりません。本業と副業の月額報酬の合計した金額を基準に保険料額が計算され、それぞれの勤務先に通知されます。この通知により副業先の収入について本業先にも強制的に伝わります。社会保険の二重加入により、将来の年金受給額が増えるというメリットはありますが、短期的にみると保険料負担額の増加や強制的な情報開示といったデメリットも存在します。
上記で述べたように正社員が「雇用契約」での副業を行う場合、労働時間の通算ルールや社会保険の二重加入といった問題に直面することになるでしょう。
自由と成長を手に入れる!業務委託契約で副業する3つのメリット
雇用契約以外の選択肢として「業務委託契約」という契約形態があります。業務委託契約とは企業と対等な立場で業務を請け負う契約の総称です。雇用契約とは異なり労働基準法などの適用を受けないため、労働時間の通算ルールや社会保険の二重加入の問題は回避できます。また、業務委託契約は正社員が副業を行ううえでのメリットが豊富です。ここでは3つのメリットを紹介します。
1.時間と場所に縛られない自由な働き方
企業の指揮命令下に入らないため、いつ、どこで働くかを自身の裁量で決めることができます。本業が終わった後の夜間や週末に、自宅やカフェで集中して作業を進めるなど、本業や自身のライフスタイルに合わせた働き方が可能です。またクライアントのやり取りはチャットやメールなどが中心の案件も多く、人間関係のストレスを感じにくいのも大きなメリットです。
2.スキルと努力が収入に直結する
雇用契約では時給制が多く、働ける時間が限られる副業では大きな収入アップが見込めないという側面があります。業務委託契約の報酬は成果や業務の対価として支払われます。そのため、自分のスキルや努力が収入に直結しやすく、やりがいを感じやすいのも大きな特徴です。例えば、プログラミングやWebマーケティングといった専門職では、スキル次第で高単価な案件を獲得することも可能です。自分の市場価値を試し、実力で収入を上げていきたい方にとって、大きなやりがいを感じられるでしょう。
3.キャリアの可能性を広げるスキルアップ
さまざまなクライアントの案件に携わることで、実践的なスキルが磨かれ、自身のキャリアの幅を大きく広げることができます。副業で得た新たな知見やスキルが本業に活かされたり、将来の独立・起業の足がかりになるでしょう。
ただし、業務委託契約には注意すべき点もあります。案件によって報酬額が変わるため、収入が安定しにくいこと、そして継続的に仕事を受けるには営業や契約交渉などのビジネススキルが必要になることです。また契約上の責任も大きく、契約違反に対するリスク管理が求められるため、一定の自己管理能力が必要です。
業務委託契約と雇用契約の違いについて、詳しくは下記の記事を参考にされてください。
【徹底解説】雇用契約と業務委託契約の違いとは?知っておくべき法的性質と4つの重要ポイント
また、業務委託契約で起こりうるトラブルについては下記の記事で詳しく解説しています。
業務委託契約で失敗しない!トラブルを回避するために押さえるべき4つのポイント
自分を守る知識!業務委託契約の種類と「準委任契約」が安心な理由
業務委託契約は法律の上では、「請負契約」「委任契約」「準委任契約」という3つの契約形態に分類されます。ここでは副業者が多く利用する請負契約と準委任契約の違いについて解説します。
「請負契約」と「準委任契約」の目的と責任の違い
| 項目 | 請負契約 | 準委任契約 |
| 目的 | 成果物の完成 | 業務遂行 |
| 責任 | 契約不適合責任 | 善管注意義務 |
請負契約と準委任契約を選択する際に着目すべき点は、契約の目的と責任の違いです。
請負契約は「成果物の完成」を目的とし、Webサイトや記事など成果物を納品して初めて報酬が発生します。そのため、成果物が契約通りでなければ「契約不適合責任」を負い、修正や報酬の減額、損害賠償を求められる可能性があります。納品したシステムにバグがあった場合は、納品後にもその修正を求められるケースが少なくありません。個人で副業を行うには、このリスクは非常に重い責任となり得るのです。
準委任契約では「業務の遂行」そのものを目的としており、コンサルティングやシステム保守など、業務プロセスに対して報酬が支払われます。準委任契約で課される責任は「善管注意義務」です。これは専門家として一般的に期待される注意を払う義務であり、結果や成果を保証するものではありません。誠実に業務を遂行していれば、期待通りの成果が得られなかったとしても原則として責任を問われません。過大なリスクを負う可能性のある請負契約と比べ、準委任契約の方が副業ワーカーとして大きな安心材料となります。
業務委託契約の種類と違いについて、詳しくは下記の記事を参考にされてください。
業務委託契約(請負・委任・準委任)の基礎知識と責任範囲を徹底解説
リスクを軽減する準委任契約の成果完成型という選択肢
準委任契約には、報酬形態によって下記の2種類に分類されます。
| 履行割合型 | 既履行の割合や作業時間に応じた報酬の支払い |
| 成果完成型 | 成果物ベースの報酬の支払い |
「成果物は求められるが、請負契約のリスクは避けたい」という場合に有効なのが、準委任契約の一種である「成果完成型」です。これは、報酬の支払いを成果物の納品と連動させつつも、負うべき責任は「善管注意義務」に留まる契約形態です。請負契約に比べてリスクを大幅に軽減できるため、覚えておくと良いでしょう。
最適な契約形態を選ぶ4つの視点
請負契約と準委任契約のどちらが最適な契約形態なのか、戦略的に選択するために「業務の性質」「成果物の明確性」「期間と複雑性」「リスク許容度」という4つの視点から検討できます。
| 検討項目 | 請負契約が適する場合 | 準委任契約が適する場合 |
| 業務の性質 | 価値が成果物にある | 価値がプロセスにある |
| 成果物の明確性 | 成果物と仕様が明確 | 業務範囲が流動的・継続的 |
| 複雑性 | 仕様が固定 | 仕様変更の可能性あり |
| 責任 | 契約不適合責任 契約終了後も責任追及の可能性有 |
善管注意義務 |
検討項目1:業務の性質
業務の価値が最終的な「モノ」にあるのか、専門的な「プロセス」にあるのかといった業務の性質で検討をしましょう。ロゴデザインのように成果物そのものが価値を持つ場合は請負契約、システムの保守・運用のように継続的なプロセスが価値を持つ場合は準委任契約が適しています。
検討項目2:成果物の明確性
成果物が具体的に定義されていて明確であるかを確認しましょう。仕様が明確なキャンペーンページの制作などは請負契約が適しています。業務範囲が流動的なコンサルティング業務などは準委任契約が向いています。
検討項目3:複雑性
業務の複雑性についても事前に確認しましょう。仕様変更の可能性があるアジャイル開発などのプロジェクトは、柔軟に対応できる準委任契約が適しています。逆に、仕様が固定された記事の執筆などのタスクは請負契約が効率的です。
検討項目4:責任
特に重要な判断基準が契約に伴う責任についてです。業務が完成しないリスクをどの程度負えるか検討しましょう。請負契約は契約不適合責任という成果物の完成責任を負うため、契約終了後も成果物に対しての責任追及の可能性があります。準委任契約は善管注意義務に留まるため、リスクは低くなります。
これらの要素を総合的に判断し、自身の業務内容に合った契約形態を選択することが、副業の成功の鍵です。
副業でリスクを抑えるには準委任契約が最適解
正社員が副業を行う場合、雇用契約では「労働時間通算ルール」や「社会保険の二重加入」といった大きなリスクを避けられません。その点、業務委託契約、とりわけ準委任契約を選択すれば、責任は善管注意義務に限定され、過大なリスクを負わずに柔軟な働き方を実現できます。副業を成功させるには、契約形態の理解と選択が欠かせません。これから副業を始める方は戦略的に契約形態を選択しましょう。