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2025/09/18
業務委託契約(請負・委任・準委任)の基礎知識と責任範囲を徹底解説
副業を始めるとき、多くの人が選ぶ契約形態が「業務委託契約」です。
業務委託契約とは、個人または企業(委託者)が特定の業務を、外部の個人や企業(受託者)に対して委託する際に締結される契約の総称です。
業務委託契約と呼ばれるものは、法律上は仕事の目的によって「請負契約」「委任契約」「準委任契約」のいずれかに分類されます。
| 業務委託契約 | 請負契約 |
|---|---|
| 委任契約 | |
| 準委任契約 |
「どれも同じようなものでは?」と思うかもしれませんが、この違いを理解しないまま契約を結んでしまうと、深刻なトラブルに発展しかねません。
この記事では、業務委託契約の基本となる3つの契約の違いから、受託者が負うべき法的責任を詳しく解説します。
目次
業務委託契約の種類|請負契約・委任契約・準委任契約
業務委託契約には「請負契約」「委任契約」「準委任契約」の3つの種類があります。契約の目的が「仕事の完成」か「業務の遂行」かによって契約形態が決まり、それに伴い報酬の支払条件、受託者が負うべき責任が異なります。法律の定義からそれぞれの契約の知識を深めましょう。
請負契約:「仕事の完成」に対して報酬が発生
請負契約は、民法632条で「仕事の完成」を目的とする契約と定められています。
民法632条
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
Webサイトの制作、システムの開発、建物の建築など、具体的な「成果物」が明確に存在する仕事で使われる契約形態です。
この契約の最大の特徴は、報酬が「契約で定められた成果物の完成」に対して支払われる点です。つまり、どれだけ時間や労力をかけても、仕事が完成しなかったり、成果物が契約内容と違う場合は、原則として報酬を請求できません。
委任契約:「法律行為」を依頼する契約
委任契約は、民法643条で「法律行為」を目的とする契約と定められています。
民法643条
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
弁護士に訴訟代理を依頼する、税理士に税務申告を依頼するなど法律行為を委託する場合に適用される契約であり、法律行為の遂行に対して報酬が支払われます。
準委任契約:「業務の遂行」が目的となる契約
準委任契約とは、法律行為以外の「事務」を委託する場合に交わされる契約のことです。民法上では、委任契約と同節で準委任契約を定めています。
(準委任)民法656条
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
準委任契約はビジネス実務において最も広く利用される契約形態であり、コンサルティング、システムの保守・運用、マーケティング支援、セミナー講師など、専門的な知識やスキルに基づくサービスの提供で利用されています。企業の人材不足という課題に対して、副業人材やフリーランスといった専門スキルを持った人材を確保する際に、一般的に利用されている契約形態です。
【比較】請負契約・委任契約・準委任契約の違い
請負契約、委任契約、準委任契約は、仕事の目的がどこに設定されているかによって区別されます。請負契約は成果物の完成を目的とし、委任契約は法律行為の遂行、準委任契約は法律行為以外の業務遂行を目的とします。
報酬の支払い基準については、請負契約では完成した成果物に対して報酬が支払われるのに対し、委任契約や準委任契約では業務遂行のプロセスに基づいて報酬が発生します。ただし、委任契約や準委任契約においても契約内容により成果報酬型とすることが可能であり、弁護士が訴訟で勝訴した場合の成功報酬がその例です。
また、契約内容の相違点として再委託の可否があります。再委託とは、受託者が依頼された業務をさらに第三者へ委託することを指します。請負契約の場合は、成果物を完成させるための工程は受託者に裁量があるため、再委託は原則認められています。たとえば、建築の請負契約において受託した建築業者が給排水工事部分を専門業者へ再委託するケースがあげられます。委任契約や準委任契約では、委託者は受託者への信頼をもとに契約を交わすため、原則として再委託は認められていません。
このように、契約形態の違いは仕事の目的や報酬の支払い方法、再委託の可否などに大きな影響を与えます。さらに重要なのは、契約ごとに受託者が負う責任の範囲が異なる点です。次章では、それぞれの契約において受託者がどのような責任を負うのかを詳しく解説します。
| 項目 | 請負契約 | 委任契約 | 準委任契約 |
| 目的 | 成果物の完成 | 法律行為の遂行 | 法律行為以外の業務遂行 |
| 報酬 | 成果物に対して | プロセスに対して | プロセスに対して |
| 再委託 | 可能 | 原則禁止 | 原則禁止 |
| 例 | Web制作、建築 | 弁護士依頼、税務申告 | コンサル、システム保守 |
業務委託契約で発生する責任|契約不適合責任と善管注意義務
契約形態が違うと、トラブルが発生した際に負うべき責任も大きく異なります。ここでは重要な「契約不適合責任」と「善管注意義務」について解説します。
契約不適合責任(請負契約)
契約不適合責任とは、引き渡された目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しない場合に、受託者(請負人)が委託者(注文者)に負う責任のことです。この責任は、主に売買契約を想定していますが、請負契約にも適用されます。業務の遂行を目的とする委任契約や準委任契約には原則適用されません。
契約不適合の場合、委託者(注文者)は以下の4つの権利を行使できます。
- 追完請求権:完全な成果物を納品されるように、修補・代替物の引渡し・不足分の引渡しを請求することができる(民法562条)
- 代金減額請求権:修正などを求めても応じてもらえない場合に、不具合の程度に応じて代金の減額を請求できる(民法563条)
- 損害賠償請求権:委託者(注文者)が損害を被った場合は、損害賠償の請求ができる(民法415,564条)
- 契約解除権:契約を解除することができる(民法541,542,564条)
この権利を主張するには、原則として不適合を知った時から1年以内に受託者(請負人)へその事実を通知しなければ、権利行使ができません。
システム開発やデザインなどの請負契約では、契約段階で成果物について両者で確認し、契約書や仕様書に詳細を記載することでトラブルを回避することが必要です。
善管注意義務(委任・準委任契約)
委任契約・準委任契約では法律の中で、受託者は善管注意義務を負うと定められています。善管注意義務とは、民法644条の「善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。」のことです。具体的には、受託者はその職業や社会的地位に応じて、一般的かつ客観的に要求される水準の注意を払って事務を処理する義務を指します。
委託者は、特定の成果ではなく受託者の専門知識、スキル、判断力を信頼して業務の遂行を依頼します。そのため受託者は専門家として誠実に能力を発揮することが法的に求められます。たとえば、準委任契約を交わしたコンサルタントは、助言した戦略の成功を保証する義務はありませんが、その戦略を立案する過程において、専門家として通常行うべき調査や分析を怠った場合には、善管注意義務違反とみなされます。
善管注意義務に違反した場合、委託者は損害賠償請求や契約解除を行う権利を持ちます。副業で多く利用される準委任契約では、この義務が課されるため、受託者はプロフェッショナルとして適切に業務を遂行できるかを十分に検討した上で契約することが重要です。
業務委託契約を交わし副業をスタートする人も多くいますが、契約を交わす前に業務委託契約で起こりうるトラブルについて事前に知識をつけておくことが大切です。
業務委託契約で生じやすいトラブルについては、以下の記事も参考にしてください。
参考:業務委託契約で失敗しない!トラブルを回避するために押さえるべき4つのポイント
適切な契約が、トラブル防止と信頼関係構築のカギ
業務委託契約と一括りにせず、その法的な性質を正しく理解し、目的に合った契約タイプを選択することが、トラブルを未然に防ぐための第一歩です。
- 目的が成果物の場合は請負契約
- 目的が業務の遂行の場合は準委任契約(法律行為の遂行の場合は委任契約)
この基本を念頭に置き、受託者が負う責任や起こりうるトラブルを理解し、両者間で契約前に協議し契約書を作成することで、生産的な協力関係を築くことができます。契約書の作成は、将来の紛争を防ぐための重要な「投資」です。安易なテンプレートの利用に頼らず、個々の取引の実態に合った契約を結ぶことを心がけましょう。