SkillCraftブログ
2025/10/22
「偽装請負」のリスクを徹底回避!実践すべき3つのチェックポイント
人材不足や専門スキルの確保は、多くの企業が抱える共通の課題です。Web制作やシステム開発、マーケティング、経理業務など、専門性の高い業務を外部のプロフェッショナルに任せる「業務委託」は、こうした課題を解決する非常に有効な手段となるでしょう。従業員を雇用するのに比べて、社会保険料などの負担がなく、必要な時に必要なスキルを確保できるため、コストを抑えながら事業を加速させることができます。
しかし、この「業務委託」の手軽さの裏には、「偽装請負」という重大な法的リスクが潜んでいます。良かれと思って結んだ契約が、気づかぬうちに法律違反となり、金銭的リスクや罰則、さらには企業の社会的信用の失墜といった深刻な事態を招く恐れがあります。
この記事では、副業人材やフリーランスに安心して業務を委託するために、経営者や担当者が知っておくべき法的な違いから、具体的なリスク回避策まで解説します。
雇用と業務委託の大きな違い「指揮命令関係の有無」
まずはじめに「雇用契約」と「業務委託契約」の違いを正確に理解することが必要です。この二つは、契約の目的が根本的に異なります。
雇用契約:「労働力の提供」が目的
雇用主が労働者の労働時間やプロセスを管理し、労働の対価として給与を支払う契約です。労働者は会社の指揮命令に従って働く義務があり、労働基準法などの法律で手厚く保護されます。
業務委託契約:「仕事の完成」「業務の遂行」が目的
業務委託契約とは、特定の業務の遂行や成果物を納品することに対して報酬を支払う契約の総称です。法律上は仕事の目的によって「請負契約」「委任契約」「準委任契約」の3つのいずれかに分類されます。委託者と受託者は対等なビジネスパートナーであり、仕事の進め方や働く時間・場所は、原則として受託者の裁量に委ねられます。
雇用契約と業務委託契約では、「指揮命令関係の有無」が決定的な違いです。雇用契約は、雇用主に指揮命令権があり、勤務時間・勤務場所・業務の進め方などを指示し、労働者は指示に従い労働します。業務委託契約では、委託者から受託者への指揮命令権は存在しません。受託者は独立した事業者として、いつ、どこで、どのように業務を行うかを自身の裁量で決定できます。この違いを曖昧にしたまま業務を進めてしまうことが、偽装請負問題の入り口です。
知らないでは済まされない「偽装請負」問題
偽装請負とは、契約上では請負契約・委任契約・準委任契約となっているにも関わらず、実態が直接雇用や労働者派遣などの労働基準法上の「労働者」と同じであると判断される状態をいいます。具体的には、委託者である企業が、受託者に対し従業員と同じように業務の進め方を細かく指示したり、勤務時間を管理しているケースがあげられます。
偽装請負が問題視される理由
偽装請負が違法とされる理由は、労働者の権利が不当に侵害されるからです。雇用契約であれば労働基準法によって守られるはずの労働者が、業務委託という形式を取ることで、残業代や有給休暇、社会保険といったセーフティーネットを受けることができない状況が生まれます。これは、企業が本来負うべき責任やコストから逃れるための行為とみなされるのです。
偽装請負と判断された場合のリスク
偽装請負は、労働者派遣法・職業安定法・労働基準法に抵触する行為です。労働基準監督署の調査などで偽装請負と判断された場合、企業は過去にさかのぼって社会保険料の納付、未払いの時間外手当の支払いなどの金銭的負担を負います。より悪質な場合は、行政指導または行政処分、罰則が科されるリスクがあります。
【実践編】明日からできる!偽装請負にならないための現場運用徹底ガイド
契約書を整えるだけでは、偽装請負のリスクは回避できません。重要なのは「日々の業務実態」です。受託者に対して、実質的に従業員と同じような指揮命令を行っていないか、この「労働者性」の有無が厳しく問われます。知らないうちに法律違反とならないよう、明日からすぐに現場で実践できる具体的なチェックポイントを詳しく解説します。
チェックポイント1:指揮命令関係ー「指示」と「依頼」の境界線を見極める
偽装請負と判断される最大の要因は「指揮命令関係」の有無です。委託者が受託者に業務の遂行方法や手順について具体的かつ詳細な指示を行っている場合、それは指揮命令関係の証拠とみなされます。受託者は部下ではなく、対等なビジネスパートナーです。業務のプロセスに介入せず、成果に焦点を当てることが鉄則です。
日常業務に潜むNGコミュニケーション
何気ないやり取りが、実は違法な「指示」になっているかもしれません。許容される「依頼」と許容されない「指示」の境界線を理解し、コミュニケーションでのリスクを回避しましょう。
許容される行為(依頼・情報提供・確認)
- 業務遂行に不可欠な情報(プロジェクトのスケジュール、技術仕様、関連資料など)の提供
- 契約書や仕様書に定められた客観的な基準に基づき、成果物に対する検収やフィードバックを行うこと
- 契約内容の範囲内で、業務の目的達成に必要な事項について協議・依頼すること
- 成果物に契約不適合があった場合に、契約に基づき修正を求めること
許容されない行為(指揮命令・指示)
- 具体的な作業手順や方法を逐一指示すること
- 日々の始業・終業時刻や業務の進捗を細かく管理・監督すること
- 契約範囲外の業務を一方的に割り当てること
- 受託者の働き方や時間配分をコントロールするような指示を出すこと
具体的な場面で「依頼」と「指示」の違いを見ていきましょう。
| ケース | 許容されるコミュニケーション(依頼・確認) | 許容されないコミュニケーション(指揮命令・指示) |
| 進捗状況の確認 | 「契約に基づき、今週末に進捗状況をご報告いただけますでしょうか」 | 「今日の15時までに〇〇の作業を完了させて、進捗を口頭で報告してください」 |
| 成果物へのフィードバック | 「納品物ですが、仕様書A-3項の要件『ロゴは青系統』が満たされていません。修正をお願いします」 | 「このデザインはイメージと違う。もっとインパクトのある赤を基調にして、全体的に右上にテキストを移動させてください」 |
| 仕様変更 | 「クライアントから追加要望があり、当初の契約範囲外の機能Xが必要になりました。別途お見積りと納期をご相談させていただけますか」 | 「急遽、機能Xも追加で実装してください。今の作業を中断して、最優先で取り掛かってください」 |
受託者とのコミュニケーションでは、対等なビジネスパートナーに仕事を依頼するという意識を持つことが不可欠です。また現場の従業員へも業務委託契約の内容やリスクの情報を共有することが重要です。受託者の担当窓口を一本化したり、チャットやメールなど記録が残る方法での連絡にすることで、コミュニケーションによるリスクを減らすことができます。
チェックポイント2:時間・場所の拘束―働き方を縛っていないか
原則として受託者は「いつ」「どこで」仕事をするかは本人の自由です。タイムカードで勤怠を管理したり、「月曜から金曜の9時〜18時まで」といった形で勤務時間や勤務場所を指定したりする行為は、雇用関係を強く推認させる典型的なNG行為です。
例外的に拘束が認められる「正当な理由」とは?
業務の性質上、どうしても時間や場所の指定が必要な場合があります。その「正当な理由」とは、企業の都合ではなく、客観的・合理的な必要性がある場合に限られます。
- 特殊な設備・環境の必要性:委託者しか保有していない高価な専門機材や、特殊な開発環境を使用しなければ業務が遂行できない場合
- 業務の性質そのもの:イベント会場での撮影、建設現場での作業、顧客先での会議への同席など、物理的にその時間・その場所でなければ業務が成り立たない場合
これらの例外を適用する場合でも、契約書にその具体的な理由を明記し、業務に不要な時間まで拘束することがないよう、現場での配慮が求められます。
チェックポイント3:業務の許諾の自由―「NO」と言える関係か
独立した事業者であれば、発注された仕事を請けるか断るかを自由に決められるはずです。受託者が委託者からの依頼を実質的に断れない状況にあれば、それは対等な関係とは言えず、労働者性があると判断される要因になります。
契約書に「業務依頼を拒否できる」と明記されていても、依頼を断った場合に契約更新を拒否されたり、その後の発注が著しく減少したりするなど、事実上のペナルティが存在する場合、「許諾の自由」は名目的なものに過ぎないと判断されます。裁判例においても、割り振られた業務を基本的に断らず受けていた実態や、固定報酬制で業務量を定められていたために事実上依頼を拒否することが困難であった状況などが、労働者性があり偽装請負と判断される要素として重視されています。
上記の3つのチェックポイント以外に、「労働者性」がないと判断されるための補強ポイントとして下記の要素もあげられます。
- 代替性・・・代役を立てて仕事をすることを認められている
- 資機材などの負担・・・仕事で使う材料や機械・器具を受託者側で用意している
- 報酬の額・・・専門性のある仕事のため、正規従業員よりも報酬が高額である
- 専属性・・・受託者が自由に他の仕事に従事できる
チェックポイントについて理解し、日々の業務の中で指揮命令関係ではなく対等なビジネスパートナーとしての良好な関係を築いていきましょう。
【重要】従業員と業務委託者が混在する環境での注意点
従業員と委託者が同じオフィスで働く環境は、指揮命令系統が曖昧になりやすく、偽装請負のリスクが格段に高まります。両者の区別を明確にするための、物理的・組織的な対策が不可欠です。
物理的・論理的な分離
受託者のための専用スペースを設けたり、デスクの配置を従業員と明確に分けたり、コミュニケーションツールにおいても、チャンネルやグループを分離し、受託者が社内全体の情報共有や雑談に参加するような状況を避けるべきです。
明確な役割と指揮命令系統の確立
プロジェクト体制図を作成し、誰が誰に報告・依頼する系統なのかを可視化することが重要です。従業員は社内の上長から指示を受け、受託者は担当者に対して成果物を納品し、報告を行います。両者の役割と責任範囲を明確にし、関係者全員に共有する必要があります。
社員への徹底した教育
受託者と接する機会のある管理職や従業員に対し、法的な境界線について定期的な研修を実施することが不可欠です。受託者に対して、部下や同僚であるかのように直接的な業務指示を与えたり、時間管理を行ったり、契約外の業務を依頼したりすることが会社全体を重大な法的リスクに晒す行為であることを周知しましょう。
正しい知識で、業務委託を成功の起爆剤に
業務委託契約は、正しく活用すれば中小企業にとって人材不足を解消し、事業成長を加速させる強力な武器となります。偽装請負という問題を回避するために最も重要なことは、「契約書という形式よりも、日々の業務の実態が重視される」という原則を常に念頭に置くことです。そして、受託者を「安価な労働力」ではなく、「尊重すべきビジネスパートナー」として捉え、その独立性を侵害しないよう細心の注意を払うことが、結果的に企業の価値を守り、育てることに繋がります。業務委託契約のあり方を見直し、健全で生産的なパートナーシップを築いていきましょう。